“やさしい時間”が生み出す数々の発見

“sweet heart”の生まれる場所から

みんながとても自然体のままで、好きなこと、好きな作業にキラキラと輝いて取り組む(勤しむではない) たくさんの”やさしい時間“がそこ、「カプカプ」にはありました。

「それぞれが自分のできるやりたいことを存分にやる」「作ったものが喜ばれる」

横浜市旭区「西ひかりが丘団地」の商店街にある喫茶店と工房の「カプカプ」を運営するNPO法人カプカプの鈴木励滋所長のこの言葉が、この”やさしい時間”が生み出す、とても優しく美味しいお菓子が作られる原動力を端的に示している、と感じた訪問でした。

sweet heart projectの仲間、「カプカプ」(カプカプという名称の由来は、宮沢賢治の「やまなし」という短編童話に登場する“クラムボン”という空想上の生物の笑い声。「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」という一節だそうです。“かぷかぷ笑う”その光景を想像するだけでも、楽しい気持ちになりますね)では、様々な障がいのある「メンバー」の皆さん(カプカプでは作業に参加の皆さんを「メンバー」と呼んでいます)、それぞれが、それぞれのペースの自然体で、かつ、それぞれ好きな作業に取り組み、まるで、ジグソーパズルのピースを無理なくゆっくりとした時間でだんだんと集めて完成させるようなお菓子作りが行われていました。

お菓子作りに取り組むのは10数人のメンバーさん、作られるお菓子は、有機砂糖や有機チョコレート、自家製夏みかんジャムなど厳選した材料で作られるパウンドケーキ(チョコ夏みかん、紅茶夏みかん、いちじく、レーズンの4種類)、厳選した材料で作るクッキー(ゴマ、ココア、紅茶、よもぎ、ピーナッツのクッキー)、それに紅茶プリン。
特筆すべきは、このお菓子のレシピ、この地域コミュニティーや周辺の人たち、主婦の方でお菓子作りが好きな人が工夫をしてまとめ、それをもとにカプカプのメンバーさんが作っているということ。お菓子作りを支えるスタッフもアイディアを寄せるのも、いわば地域の一般の生活者の皆さん。

カプカプのメンバーさんたちは、作業がそれほど早くない人も早い人も、また、細かな手先作業が得意な人も、それほど器用でない人も、いろいろ。パウンドケーキの材料のレーズンやいちじくを扱う細かな作業など、作業をいろいろ細分化して、メンバー誰でも、”この作業ができることが分かった””これが好きなことが分かった“と発見でき、自然に取り組めるという工程を大事にしながら行っています。
ある意味、カプカプには、作業の効率性や生産性を追求して時間軸を気にし、何かに追われるような雰囲気も空間も時間も存在しない、とでも表現したくなる、”やさしい時間“が流れていました。

”やさしい時間”を感じながら、理屈っぽい話になりますが、効率性、生産性、合理性の追求と利益最大化、ということが現代資本主義的、現代の事業活動の大命題であり、多くの人が知らず知らずに刷り込まれて日々生きていることが、日本の経済成長とともに長く続いてきています。
しかし、今、コロナ渦などを経て、社会の中では、働き方の変化や在り方、ワークライフバランスの概念など、生活や生き方の多様性を探る時代です。
そうした中、障がいを持つ人たちが、自分の本当にやりたい事、自分が好きで得意なこと、本当に何が好きなのか、ということを見つけることに社会が思いを致すということは、ともすれば忘れられがちなのでは、と感じます。

カプカプのお菓子作りは、メンバーさんたちが、”本当の自分探し“を自然体で無理なく進め、その中で、得意な作業を、それぞれのペースで存分に楽しんで進めていく、という”やさしい時間”の流れの中で行われています。それは、大きな話で言えば社会への参加につながる、ということになりますが、それよりも前に、自分が生き生き出来る自然な充実感の発見でもあると思います。

パウンドケーキ袋詰めが得意な真波(まなみ)さん、クッキーの作業が上手な美姫(みこ)さん、そして、絵を描くなどのものづくり部門の作業が得意な”海マカロン“さん・・・
カプカプで会ったメンバーの皆さんは、とても自然体で生き生きと楽しそうに作業をしていました。

この、みんなが自然体で無理なく進めるカプカプのお菓子作りですが、「パウンドケーキは1週間に多い時は100個、クッキーも多い時は1週間で75袋分、と、メンバーが好きで楽しんで生き生きと作業をすることで、生産ペースはとても無理なく安定的にできています」と、カプカプスタッフのすずき・まほさんは語っています。
「売れ行きもsweet heart projectに参加していることもあり、常に完売ですよ」と嬉しい言葉もいただき、取材しながらとても幸せな気持ちになりました。
また、地域の高齢者施設などからは、”お中元にしたい””お歳暮に使いたい“と、季節の品としての注文も受けて、このカプカプの”やさしい時間”が生み出すお菓子は、多くの人に求められ、喜ばれているのです。

【やさしい】という言葉を辞書で見てみました。
【やさしい】とは「他人に対して思いやりがあり、情が細やかである」という言葉です。これは私たちの多くが【やさしい】という言葉に感じるものだと思います。ほかにも「心打たれるさま、立派であるさま」との意味もありました。
健常者も障がいのある人も、それぞれが自然体のペースで、素直な心で好きなことに取り組み、それで人が喜んでくれる、それこそが”優しく“”やさしい時間“のつながりなのではないでしょうか。

sweet heart projectの仲間は、施設、団体それぞれ活動の環境や運営状況は異なると思います。でも、それぞれの”sweet heartが生まれる場所“では、それぞれの”やさしい時間”が確実に流れているのだと、カプカプさんを訪ねてとても強く感じました。

大山 泰
sweet heart project 実行委員
(元フジテレビ報道局経済部長、解説委員)

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