こだわりのラスク製造の工房を訪ねて

“sweet heart”の生まれる場所から

――板橋区立赤塚福祉園 ワークセンターはばたき(就労継続支援B型)

sweet heart projectで取り扱わせていただいている商品の一つに、「社会福祉法人嬉泉(きせん) 板橋区立赤塚福祉園 ワークセンターはばたき」の「ラスク」がある。

円柱型のパンを薄切りにしたベーシックな形の「ラスク」の味は、「シュガー」「レーズン」「ガーリック」「チョコチップ」「シナモン」の5種類。この他にパンの切れ端部分をさらに小さくカットした「一口ラスク」があり、シュガーバター味の「ハシッコ」、ガーリックバター味の「ガリッコ」、食パンから作る「ハニー」の3種類。加えて、冬季には食パン生地にチョコレートコーティングしたラスク「チョコレート(ホワイト、スイートの2種)」と、一口ラスクにチョコをかけた「チョコッコ」が期間限定で発売される。

種類豊富なこのラスク、39人いるワークセンターはばたきのメンバー(障がいのある方)のなかで、食に興味のある5人の方々が、パンから手作りして作っているという。こだわりのラスク作りの現場を見てみたいと、同園におじゃました。

ラスクのために、パンから手作り

4月の平日のお昼過ぎにワークセンターはばたきの工房(調理室)を覗かせてもらうと、調理服、調理帽、調理靴、手袋、マスクを身にまとった3人の障がい者の方たちが、ラスクを作っていた。

2人はパンの生地を作る係で、調理台の前に立ち、慣れた手つきで、バッタン、バッタンと台に生地を打ち付けていた。こうして空気を含ませながらこねていくことで、少しずつ弾力のある生地ができあがる。後方では、1人がイスに座り、カットしたパンの表面に、刷毛でバターを塗っていた。これを再度焼いてラスクができ上る。パンを作るのに1日、できたパンをカットしてラスクにしていくのに1日かかるため、パンの在庫がない場合、ラスク作りには2日かかるという。

「ラスク作りに携わっているメンバーさんは、現在5人ほどです。基本的に全員が全行程できるので、ラスクの注文が入っている日は担当分けして作業に入ってもらっています」とは、スタッフ(職員)の鶴岡果澄さん(以下、会話はすべて鶴岡さん)。

特にパンをこねる工程は力が要り、慣れていないとうまく空気を含んでいかない。また、レーズンパンは、レーズンが均等に生地に混ざるようにこねていくので、さらに技術を要する。見学したときにも、得意な方が仕上げをするなど、メンバー同士で助け合っていた。

「あらかじめ『今日は午後からパンをこねる担当に入ってもらえますか』など、どの作業をしてもらうかを明確に伝えてお願いしておくと、メンバーさんも心づもりしてくれます」。出来上がったラスクは、スタッフが袋に入れて封をする。この袋の端を折ってシールを貼る仕上げの作業もメンバーの仕事の一つだ。最終的には職員が1つ1つ検品を行い、異物などが入っていないかなどをチェックしているという。

請け負いだけでない仕事をと始まった

 実は、ワークセンターはばたきがメインとしてきたのは、企業から発注されたチラシの封入や箱の組み立てで、ラスクの製造販売は平成22年(2010)から今年で11年目になる。我々がおじゃました日も、小学校の教室2つ分くらいの広い作業室では、メンバーが一人一人透明のパネルで囲んだ机に向かって作業をしていた。この中には、先ほどまで調理室でラスクを作っていた方もいた。

郵送袋にチラシを入れて封をする方、箱を折って組み立てる方、奥の部屋ではドッグフードを袋詰めしている方もいた。ダイレクトメールの宛名貼りやゴルフティーの検品作業といった依頼もあるそうだ。

しかし、こうした仕事だけでは企業からの発注が止まると収入源が途絶えてしまう。そこで園で作って売れるものがあれば、プラスアルファの収入源になるのではないかと始まったのがラスクの製造販売だという。また、企業からの発注作業には障がい特性によって向き不向きがあることもラスクの製造販売を考える要因としてあった。「作りやすいこと、ある程度日持ちがすること、他の園であまり作っていない商品など、総合的に考えてラスクになったと聞いています。ご縁のあった池袋のレストランのシェフが教えてくださったレシピで作っています」。

小麦の味わいを引き出し、ラスクにしたときにカリっとした食感になるよう、すべて手ごねしたパンから作る。また、北海道で非遺伝子組み換え飼料にこだわって育てた乳牛の牛乳から作られた「よつ葉バター」を使用する。こうしたこだわりの一つ一つを忠実に守りながら作られたラスクは少しずつ評判になり、同園に直接注文が入るだけでなく、板橋区内の交流スペース、民間のカフェや高島平駅(板橋区)のスマイルマーケットなど、少しずつ販路が広がってきた。

しかし、コロナ禍で続く外出自粛の影響は、同園にも降りかかった。「昨年の緊急事態宣言下は、取引先からのチラシ封入などの発注が減りました。ラスク製造販売についても、今まで福祉系の販売会などにも出店していたのですが、こうしたイベントごとが中止になったこともあり、注文が減っています」。幸い、取引先からの発注は徐々に戻ってきたというが、ラスク販売については減少している。販売会は製造するメンバーと商品購入者が顔を合わせられる交流の場でもあったのだが、その機会も奪われたままだ。取引先の発注仕事とラスク製造販売を含めて、メンバーの方が月に得られる工賃は、人によって違いはあるが、多い年だと年末の繁忙期で月4万円程度だったが、現在は2~3万円程度に落ちているという。

現在、sweet heart projectのホームページでも、同園の商品を取り扱っている。注文を受けてからの製造となり、一度に作れる数に限りがあるため、特に大量注文の場合は要相談となる。あらかじめ余裕を持ってご連絡を。

ホシカワミナコ
sweet heart project 実行委員
(フリーランスエディター・ライター)

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。