〈sweet heart project(以下、SHP)〉のお菓子を手にしたら、ぜひスイーツとともに楽しんでもらいたいものがあります。それは、パッケージに採用されている「アート作品」。
モチーフも、テイストも、筆致もさまざまな、個性あふれる多様なイラストを眺めていると、心にスーッと沁み込んでくるものがあったり、フフッと笑みがこぼれたり。目や心を楽しませ、あたたかい気持ちにいざなってくれるかもしれません。

これらのアートを手がけているのは、全国各地の福祉施設に所属するメンバーたち。SHPでは、お菓子の製造だけでなく、パッケージのアート作品においても、障がいのあるメンバーたちと協働しています。
現在、SHPのお菓子に採用されている作品は約100点。それらのアートを提供している事業所のひとつが、京都府右京区に拠点を構える〈NPO法人 加音(かのん)西京極作業所〉です。
メンバーが描く、そのまんま“素”のアート
SHPが加音と出会ったのは、2024年3月。京都で同事業所の所長・北村雅子さんと偶然に出会い、障がいのある人の工賃問題や、SHPが行ってきた取り組みなどに話が及び、意気投合。
「私たちの事業所では製菓は行っていないんですが、日中活動や、月1回の創作活動のなかで、メンバーたちは作品制作に取り組んでいます。そんななかで生まれたアート作品がお菓子のパッケージになって全国に届くというのがいいなぁと思って」(加音所長・北村雅子さん)


メンバーたちの作品の魅力を広く知ってもらいたい思いから、積極的に展覧会などを行っているという加音。けれども、会場で作品を目にする人の数と、クッキーのパッケージから作品に触れる人の数は圧倒的に違うといいます。
「お菓子を手にして『この絵、いいな』と思う方も出てくると思うんです。実際にSHPに参画してから、メンバーの描いた作品がいくつか旅立っていきました。ほかにも『この絵を売ってほしい』という声が何度もかかる絵があるんですけど……描いた本人が売りたくないみたいで」
と笑う北村さん。数カ月をかけて1つの作品を完成させるというそのメンバー。一筆一筆に思いを込めながら、作品に向き合ってきた時間を思えば、手放したくないという気持ちが湧き上がってくるのも当然かもしれません。
一方で、作品が売れればメンバーへの工賃が大きく向上することも確か。原画を購入したいという方がいれば、メンバーの思いを尊重しながら、前向きに検討したいといいます。
「メンバーたちの作品は、どれを見ても評価を求めて描いてないというか。そのまんま“素”で描いてはるんです。そんなところがすてきやなと思うんですね。クスッとさせるようなところもある、メンバーたちの魅力あふれる作品を知ってもらえたらと思っています」

メンバーの変化、スタッフの工夫
メンバーたちが描いたアート作品を眺めていると、モチーフのユニークさ、構図や色使いの独創性、迷いのない線や潔い筆致にハッとしたり、ワクワクしたり。そこに物語が存在しているような作品も多く、いずれも色彩豊かです。
こうした魅力的な作品はどのようにして生まれるのか北村さんに聞いてみると、初めからすべての作品がカラフルではなかったといいます。
「隣の人の絵を見たりしながら、メンバー同士が刺激し合って、自分自身で変わっていった部分もあるんじゃないでしょうか。あとは、コミュニケーションツールを導入したことで、色調が変化したメンバーもいます」
春の野のような明るい色調の作品を多く手がけるMAMEMIさんは、絵を描き始めた当初は、どちらかといえば暗いトーンの絵が多かったのだそう。会話でコミュニケーションするのが難しいというMAMEMIさんは、ピンクの色鉛筆が欲しくても、その場になかったり、芯が折れていれば、我慢してしまう人だといいます。
「そこにある色鉛筆でやむなく描いてはったので、全体的に暗い色味になってしまっていたようです。それが、PECS®(ペクス)という絵カードを使うコミュニケーションシステムを導入してから「ピンク、色鉛筆、ください」など、色を指定してくるようになって。それ以来、彼女の作品は全体的に明るい色になったんです。ツールを取り入れたことで、本当に描きたいものが描けるようになったというのは、私たちにとっても大きな気づきでした」

「言いたいけれど、伝わらないから、これでいい」そうした諦念を抱くメンバーを置き去りにせず、さまざまなツールや方法を用いて、気持ちや声を引き出していく。そうしたスタッフの気づき、工夫、アイデアが、メンバーたちの創作意欲を支え、魅力的な作品の誕生に寄与しているのは間違いなさそうです。
“もったいない精神”を受け継ぐ、アップサイクル・プロダクト
障がいのある人や難病患者の支援者が集まり、2009年にNPO法人としてスタートした加音。現在、生活介護(※注1)と就労継続支援B型(※注2)の2つの事業を行っています。
所属するメンバーたちは、贈答品用の箱折り班、文房具の組立て班、近隣の企業や大学などの清掃班、縫製班に分かれ、それぞれの得意を生かした仕事や作業に携わります。
(※注1)生活介護事業所……常時介護などの支援を必要とする人に、入浴・排泄・食事などの介護、創作活動・軽運動・外出機会・生産活動などを提供し、身体機能又は生活能力の向上のために必要な支援を行う事業所。
(※注2)就労継続支援B型事業所……一般企業などで雇用契約に結びつかない人や、一定年齢に達している人などに向けて、就労の機会や生産活動などを提供する事業所。就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練や支援を受けることができ、作業に対して工賃が支払われます。

オリジナル商品も手がける縫製班のものづくりは「アップサイクル」がひとつのテーマ。近隣の風呂敷工房や地域住民が提供してくれる端材や古着などを使い、さまざまなアイテムが制作されています。
「風呂敷は約120センチ幅の生地を染めてつくられるんですが、風呂敷になるのはその内の80センチくらいで、残りは廃棄されることが多いそうなんです。その部分がもったいないと思われた風呂敷屋さんが、なにかつくろうと端材部分も染めはってて。そうした端材が倉庫にたくさん眠っているというので、それをいただいて、縫製班で巾着をつくっています」
この巾着の制作においては、就労B型だけでなく、生活介護のメンバーも作業に加わっているのだとか。布の裁断、ミシンでの縫製、紐通し、紐のカット、紐を結ぶなど、作業を細分化することで、多くのメンバーがなにかしらの工程で参加することができます。
「巾着ひとつにみんなが携われる。ありがたいお仕事のひとつです」

また、京都大学総合地球環境学研究所の教授・浅利美鈴さんの研究室や、近隣在住のデザイナーと協働した「着物のアップサイクル・プロジェクト」にも参加してきた加音。現在、大阪府で開催されている「大阪・関西万博」内に設置されている土産物店〈おこしやす 京の小路〉のスタッフが制服として着用するジレは、加音と近隣の福祉作業所によって制作されました。

ほかにも、テントの端材と風呂敷布を組み合わせた箸袋や、役目を終えた消防ホースをアップサイクルしたプランターなど、ユニークかつ実用的なプロダクトも生まれています。
「京都は“もったいない精神”の街。何代にも渡って使うのが当たり前、みたいなところがあって、みなさんモノを大事に使いはります。市内にあるゴミ・リサイクルに関する団体に相談すると、自分たちでは集められないような素材を提供してくれる会社を探してくれはったりして。割とアップサイクルに取り組みやすい街だと思います」

2025年4月、現在の事業所の近隣に、新しい社屋が完成したという加音。これまでも地域住民に事業所の取り組み、障がいのある人とその特性などを知ってもらうための活動を行ってきましたが、そうした取り組みを継続し、ますます地域に根差した事業所を目指しているといいます。
加音で生まれたアート作品やさまざまなプロダクトは、SHPのお菓子をはじめ、大阪・関西万博や東京都内のショップなど、さまざまな場所で出会えます。見かけたらぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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撮影:武村菜々美
画像提供(一部):加音西京極作業所
執筆:林貴代子

(ヤングハート)

(ライター・エディター)