断面の美しいバウムクーヘンや、手にすればずっしり重く、口の中でしっとりほどけるバターケーキ、素朴ながらも味わい深いクッキーなど、〈sweet heart project(以下、SHP)〉の定番焼き菓子を手がける〈Joint Joy〉。2013年に京都府八幡市に設立された就労継続支援B型事業所で、さまざまな障がいのある人が共に活動しています。
SHPの発足時から思いと活動を共にしてきた〈Joint Joy〉は、伊藤忠商事株式会社が運営する〈ITOCHU SDGs STUDIO こどもの視点カフェ〉(東京・北青山)で提供される焼き菓子も担当。SHPを通じてこどもの視点カフェに卸されています。

そんな〈Joint Joy〉の活動はお菓子づくりにとどまりません。バラエティー豊かな具材のおむすび、栄養満点の日替わり弁当、日本伝統工芸品の組み紐、無農薬の野菜づくりなどに取り組みながら、メンバーたちの就労を支援し、さらには地域全体が元気になるような活動を行っています。
障がいのある子どもに出会い、福祉施設の工賃問題を知る
〈Joint Joy〉を立ち上げたのは、夫婦でケーキ店を営んできたという山本陽子さん。店を閉じたあと、たまたま保育園の支援活動に参加し、発達障がいのある子どもに出会ったといいます。
「この子が大人になったら、どないならはるんやろ?」
そんな疑問を抱いた山本さんは、障がいのある人のことを知りたいと、市内の社会福祉法人に入職。そして、働くなかで障がいのある人が月々受け取る工賃の低さを目の当たりにします。
「20年ほど前になりますが、メンバーさんが受け取る工賃は月に3000~4000円、多い人でも1万円程度。それでもそこそこ払ってるほうの施設でした。そんな現状を知って、“健常”といわれる人と何が違うんかな? と思ってね」
パン製造を主とするその事業所で働くメンバーの姿を目にするなかで、「同じ作業でも、もっと工賃を払えるかもしれない」という思いが、かつてケーキ店を営んできた山本さんの胸中に生まれつつありました。
「自立するなら、まずはご飯が炊けるように」
10年ほど働いたのち、福祉施設を退職した山本さんは、“食”をベースにしながら、工賃問題にも取り組むことを構想した〈Joint Joy〉を設立。まずスタートさせたのは「おむすび」の製造販売でした。

「ハンデのある人が自立するにしても、食べないと生きていけないでしょう? まずはご飯が炊けるようになったらいいなと思ったことと、衛生面のことも伝えながら自分自身で健康管理ができることも大切だと考えて。そんな感覚でスタートしました」
八幡市内に店舗を借り、地元のお米屋さんの協力を得て、おむすび屋を開店。手で握るのではなく、器の中でご飯を転がしてふんわりと丸める手法を採用し、バラエティー豊かな味わいの月替わりおむすびも考案。メンバーやスタッフの数を徐々に増やし、近隣住民にも少しずつ受け入れられていきました。

「食」がつなげていく、地域との関係
おむすび屋をオープンして1年半ほど経った頃、以前から構想にあった「お弁当」づくりにも着手していきます。
「地域の団地には高齢の方がたくさん住んでいて、うちのおむすびをごはん替わりに購入くださる方が多かったんです。自分たちは栄養たっぷりの給食をつくって食べている一方で、近隣のお年寄りの方々はおむすびだけで済ませているというのがすごく気になって。栄養満点のごはんを皆さんにも食べてもらいたくて、お弁当事業も始まりました」

店舗や道の駅で販売するおむすびに加え、毎日100~130個程の注文が入るというお弁当。その8割は宅配注文で、メンバーと一緒に車3台で手分けして届けています。そうするなかで、いつの間にか地域の高齢者の“見守り”も担うように。
「お弁当を届けたついでに、スタッフに『くつ下を履かせてくれ』とお願いする方もいたりして(笑)。日々いろいろあって、おもしろいんです。なかには倒れている方を見つけることもあるしね。そんな活動をしていると、地域の方が〈Joint Joy〉のことも大切にしてくれはるから、ありがたいです」
食、農作業、組み紐づくり—―社会とつながる自分の居場所

農業にも関心があったという山本さんは、畑を貸してくれる農家に出会い、メンバーと一緒に無農薬野菜の栽培をスタート。貸主に農業のいろはを教えてもらいながら栽培品目を増やし、育てた野菜はお弁当やおにぎり、お菓子の材料として活用しています。
また、日本伝統の工芸品「組み紐」もメンバーの手仕事として採用してきました。
「組み紐を活動のひとつにしようと思ったのは、“くつ紐”をつくりたかったから。要は『ちゃんとごはんを食べて、くつ紐をしっかり結んで、大地を歩きなはれや!』っていう気持ち。それに、人と接するのが苦手な人、引きこもりがちな人などに、組み紐ってすごく合うんじゃないかと思って。2年ほど自分も習いに行きながら始めました」


気持ちが不安定になりがちなメンバーさんも、農作業や組み紐など、目の前の作業に没頭する時間があることで、だんだんと気持ちが落ち着いてくるのだとか。「導入してよかったなと思います」と山本さん。
お菓子、おむすび、お弁当、農作業、組み紐とさまざまな関わり方があり、それぞれの得意分野で社会と接点を持てる場所――そんな〈Joint Joy〉を自分の居場所であると感じているメンバーは多くいるはずです。

SHPでも人気! 焼き菓子へのこだわり
SHPに卸されている焼き菓子にも、さまざまなこだわりが詰まっています。
「本当は地産品でつくりたいけれど、お菓子だとなかなか難しいので、顔の見える農家や、安心できるところから仕入れたり。国産で賄えるものは国産に。家族に食べさせたいものと同じように、安心できる素材じゃないとね」
製造プロセスにおいては、定年で引退したプロの製菓師を迎えて指導を行い、今では殆どの工程をメンバーに任せられるようになっているといいます。
「カップケーキ担当のメンバーさんは、もともとお菓子づくりが好きな方なのですが、出会った頃は体力がなくて、10分も立っていられなかったんです。それが、2年、3年と経つうちに作業時間も延びて、今では週2日しっかりお仕事をされていますよ。ほかのメンバーさんたちも、自分がどう動けば皆の役に立つか考えられるようになってきたり、自然と体力がついてきたり、内面的な成長も感じています」

丁寧な仕事とクオリティの高いお菓子が評価され、下請け菓子製造の問合せも度々あったという〈Joint Joy〉。けれども、実際に取り引きに至ったのはSHPのみ。
「メンバーさんの工賃を上げたいという思いが一緒やったからでしょうね。適正価格で仕入れてくれるSHPだからこそです」
福祉制度に縛られない「会社設立」を目指す
山本さんに、今後〈Joint Joy〉が目指すものを訊ねると、返ってきた答えは「会社設立」。法律やその時々で変化する福祉制度に翻弄されずに、自分たちで事業収益をあげられる経営体制にしていきたいといいます。
「会社をつくるというのは〈Joint Joy〉の立ち上げ時から考えていたこと。障がい福祉の制度が先々どうなるかわからないし、法律でどうのこうのされるのは嫌だから。私たちは、これで生きていけんねん! という柱をしっかり持っておきたいというのが夢なんです。」
そうした思いのワンステップとして、2025年5月には〈Joint Joy〉がリニューアルオープン! 従来の店舗の並びに新店舗を構え、厨房の拡張とともにお菓子と組み紐の工房を移設し、カフェも併設されます。「自分が接客するんだ! と喫茶のオープンを皆が楽しみにしてるみたいです」と山本さんは笑います。
障がいのある人の工賃アップを目指し、有志や地域の方々と協力しながらスタートした〈Joint Joy〉。各々の得意を生かしながら笑顔で働けるこの場には、今では30人のメンバーが所属しています。設立から約10年と新しい事業所ながらも、どっしりと地域に根差す〈Joint Joy〉の今後の展開を、SHPから届いたお菓子を手にしたタイミングにぜひチェックしてみてください。

リンク:
sweet heart project 〈Joint Joy〉紹介ページ
撮影:武村菜々美
画像提供(一部):Joint Joy
執筆:林貴代子

(ヤングハート)

(ライター・エディター)