“仲間”たちの声に耳を傾け、尊重する〈べっぷ優ゆう〉のものづくり

全国の福祉事業所から手づくりのお菓子や焙煎コーヒーなどを仕入れ、みなさんにお届けする〈sweet heart project〉。

2020年にスタートし、今では全国70以上の福祉事業所からお菓子が届くほどになりました(2024年12月現在)。各事業所も、お菓子を口にする人の喜びや、ホッとするひとときに寄り添いたいと、徹底した衛生管理のもと、一つひとつ丁寧に製造しています。

そんな数ある事業所から、今回は大分県別府市の〈社会福祉法人 べっぷ優ゆう〉をピックアップ。別府大学と共同開発した「甘酒クッキー」や、雑誌などでも取り上げられる「おおいた建築クッキー」も手がける、バイタリティあふれる福祉事業所です。

3人の仲間&保護者とともにスタートさせた〈べっぷ優ゆう〉

国産小麦と、ミネラルたっぷりの奄美産きび砂糖などを用い、保存料は使わず、一つひとつ手間ひまをかけてつくられている〈べっぷ優ゆう〉のクッキー。ココアピスタチオ、ハニージンジャー、カフェオレ、チーズなど、多種多様な味わいのクッキーは〈sweet heart project〉においても評判です。

〈べっぷ優ゆう〉は、理事長の田中康子さんが、身体に障害のある3人の仲間(べっぷ優ゆうでは、利用者さんのことを“仲間”と呼んでいます)とその保護者とともに2000年9月に設立し、現在は45名が通所する多機能事業所。設立当時からクッキーづくりを行っており、今では味も形もさまざまな35種類以上ものクッキーを製造しています。

キャプション:2024年夏に地元大分で販売した「うみのいきものクッキー」。春は「桜」「ひな祭り」「節分」「こどもの日」、夏は「七夕」、秋は「ハロウィン」、冬は「クリスマス」など、季節ごとにクッキー型や味わいを変えて販売されています。これらのキュートなクッキー型は仲間たちが選ぶことも多々。
2024年夏に地元大分で販売した「うみのいきものクッキー」。春は「桜」「ひな祭り」「節分」「こどもの日」、夏は「七夕」、秋は「ハロウィン」、冬は「クリスマス」など、季節ごとにクッキー型や味わいを変えて販売されています。これらのキュートなクッキー型は仲間たちが選ぶことも多々。

つくる工程も形もさまざまなクッキーを、仲間たちは3~4人で1チームを組み、それぞれの得意な作業で協力しながら製菓を行っていきます。

ちなみに、クッキーの“生地”づくりを担当できるのは7人程度。16年にもわたって生地づくりを担当してきたメンバーは、各種クッキーの原料配分やレシピがすべて頭の中に入っているだけでなく、季節や温度によって変化する生地の状態を見極め、微調整しているのだとか。

〈べっぷ優ゆう〉のクッキーが安定したおいしさをキープできているのは「仲間たちあってこそ」と、支援員さんたちは語ります。

クッキーの生地づくりの様子。家庭でつくる5倍以上の量をこねるので、兎にも角にも体力が必要。

完成した生地は、仲間によって成形されてオーブンへ。その後の袋詰め、シール貼り、発送作業、近隣への配達など、そのほとんどの作業を仲間たちが担っています。

完成したクッキーは、地元の販売店や〈sweet heart project〉に卸され、私たちのもとへ。また、別府大学の発酵食品学科に声をかけて共同開発した「甘酒クッキー」や、大分県文化観光推進事業の一環で手がけている「おおいた建築クッキー」なども制作されています。これらのクッキーを目にしたことがある人もいるのでは?

世界に誇る名建築が点在する大分県。なかでも代表的な「大分県立美術館(OPAM)」「アートプラザ」「ラムネ温泉」を模したクッキーと、温泉、花、石、森など大分の風物をイメージした全13種のクッキーが詰め合わさった「おおいた建築クッキー」。

地元焼酎の“酒パック”が主原料! 「紙漉き」プロダクト

製菓だけでなく、「紙漉き」も行っている〈べっぷ優ゆう〉。風合いのある漉き紙に、仲間たちが描いたイラストを加えて、ポストカード、グリーティングカード、メッセージカード、しおりなどを制作しています。

手漉きならではのふんわりした厚みが好まれて、活版印刷所から注文が入ることも多々。また、地元企業や市の職員などからも名刺制作の依頼がくるのだとか。

紙漉きが日中活動に加わったのは、施設を利用する仲間が増えるにつれ、「クッキー以外の仕事もやりたい」という声があったため。新しい活動を模索するなかで、偶然にも大阪で紙漉きを仕事にしている人とのご縁があり、そのノウハウを教えてもらいながら設備を整え、2007年から新事業としてスタートしました。

漉き紙の原料となる紙は、地元の焼酎メーカーから譲り受けた不要な酒パック。仲間たちは紙パックをコーティングするビニールを剥がし、紙を細かくちぎって水と撹拌し原料液にします。それらを漉いて、一枚一枚丁寧に干し、漉き紙が完成します。

(⇩完成した漉き紙のポストカード。縁のモフモフとした“耳”のやわらかさがいい感じ!)

手間ひまはかかりますが、手づくりならではの優しい風合いが好評。hokohoko_paperのインスタグラムでは、紙漉き製品の最新アイテムや、紙漉きを手がける仲間たちの様子などが紹介されているので、ぜひチェックしてみてください。

ものづくりは、仲間たちの「誇り」

クッキーや紙漉きを行う仲間たちは、自分たちの仕事に大きな誇りを持って活動しています。その思いから、じつは〈sweet heart project〉と取り引きするにあたって、クッキーの袋表面に〈べっぷ優ゆう〉のシールが貼れないことに戸惑いの声があったといいます。

「べっぷ優ゆうの表シールを貼ってほしいという声や、仲間のひとりからは『自分のつくったクッキーが地元のお店で売られているから食べてみて、と友だちに言えることがうれしいのだ』という声もありました。それだけ自分たちのものづくりに自信と誇りを持っているんです」(支援員さん)

一方で「別府だけじゃなく、もっと多くの人に食べてもらえる機会になる」という声も。時間をかけて議論を重ね、仲間たちも納得したうえで、2023年から〈べっぷ優ゆう〉のクッキーが〈sweet heart project〉に仲間入りしました。

このような戸惑いの声をはじめ、自分はどう感じているか、自分がいいと思うこと、仕事のやりやすい方法などを遠慮なく口にできる土壌が育まれているという〈べっぷ優ゆう〉。

それらの声や思いをより活動に反映させるべく、立候補した仲間が役員となり、月に一度話し合う「仲間の会」も設けられています。日頃の活動の振り返り、季節ごとのお出かけ先や催事の取り決め、アンケート集計など、仲間たちの“自主性”や“自己決定”が大切にされています。

キャプション:「仲間の会」で可決されて開催されたボーリング大会。

「誰もが持つ“人権”というものを、〈べっぷ優ゆう〉としてどのように受け止めていくかを考えたとき、仲間たちが発する声がきちんとモノゴトに反映されていることが大切なのでは、と考えています」(支援員さん)

まだまだやるべきことや課題はあるものの、仲間たちの意見や思いを尊重しながら、それらを実現させるための方法を探り、活動を続けていきたいと言います。

クッキーづくり、紙漉き以外にも、講師を招いた絵画教室や、アート公募展への出展などにも積極的な〈べっぷ優ゆう〉。仲間たちの好きや得意を広げる活動がさまざまに行われています。届いたクッキーに舌鼓を打ちつつ、ぜひ同施設の活動にも注目してみてください。

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社会福祉法人 べっぷ優ゆう

Web:

公式サイト

べっぷ優ゆう Instagram

手漉き紙工房ほこほこ(べっぷ優ゆう)Instagram

画像提供:社会福祉法人 べっぷ優ゆう

林 貴代子
(ライター・エディター)