全国の福祉事業所から手づくりのお菓子や焙煎コーヒーなどを仕入れ、みなさんにお届けする〈sweet heart project〉。
2020年にスタートし、今では全国70以上の福祉事業所からお菓子が届くほどになりました(2024年10月現在)。各事業所も、お菓子を口にする人の喜びや、ホッとするひとときに寄り添いたいと、徹底した衛生管理のもと、一つひとつ丁寧に製造しています。
そんな数ある事業所から、今回は秋田県に所在する〈南秋福祉会 飯田川つくし苑〉をピックアップ! お菓子づくりに携わる障がいのあるメンバーや、その支援を行うスタッフの取り組みをご紹介します。
地元産の食材にこだわった、やさしい味わいが評判の菓子工房
2012年、男鹿半島にほど近い八郎潟という湖のそばに開設された〈飯田川つくし苑〉。「生活介護(注1)」「就労継続支援B型(注2)」「日中一時支援(注3)」の3つの事業を展開する、障がい福祉サービス多機能型事業所です。
事業所内には〈手作り菓子工房 どんぐりの森〉という製菓工房が設けられ、「就労継続支援B型」に所属する約10名のメンバーが、それぞれの特性や得意を生かし、クッキーを中心とした焼き菓子を手がけています。
(注1)生活介護事業所……常時介護などの支援を必要とする人に、入浴・排泄・食事などの介護、創作活動・軽運動・外出機会・生産活動などを提供し、身体機能又は生活能力の向上のために必要な支援を行う事業所。
(注2)就労継続支援B型事業所……一般企業などで雇用契約に結びつかない人や、一定年齢に達している人などに向けて、就労の機会や生産活動などを提供する事業所。就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練や支援を受けることができます。
(注3)日中一時支援事業所……日中において一時的に見守り支援が必要な障がいのある人へ活動の場を提供し、その家族の一時的な休息を提供する事業所。
「ここは私に任せて」それぞれの得意が生きるお菓子づくり
計量が得意な人、生地の混ぜ方が均一な人、型抜きや搾りが上手な人――。工房には、それぞれ「ここは私に任せて」という得意な作業を持つメンバーたちがいます。その得意を見つけ、適切なポジションでメンバーが心地よく作業できる環境を整えるのは、支援員であるスタッフです。
「『これが得意』という仕事を、メンバーそれぞれに持ってもらえたらと思っています。一方で〈sweet heart project〉さんや企業さんに納品する量が増えているので、その日の作業量や、メンバーの体調などに合わせて、新しい作業にもチャレンジしてもらうことも増えました。みなさん、今では柔軟に携われるようになってきていますね」
そう語るのは〈飯田川つくし苑〉の支援員・小野正樹さん。メンバーの得意を尊重しつつ、関われるパートを増やし、メンバー自身も気づいていない得手の発見につながれば、といいます。

施設として一番大事にしたいこと
クッキー、タルト、ショコラケーキなど、現在13品目のお菓子を手がけている〈飯田川つくし苑〉。各方面から評判を得る製菓工房だからこそ、新商品も期待されているはず。定期的に新しいレシピも手がけているのでしょうか?
「これまで新商品を開発したりもしましたが、施設として一番大事にしたいことは、メンバーとの作業のなかで、既存の商品のクオリティを安定的に維持していくこと。そこに力を注いでいます」(小野さん)
品目が増えると、当然ながら作業や工程が増え、それらに慣れるまでの時間も必要です。手が回らなくなることで、既存のお菓子の品質、作業の丁寧さに影響が及ぶようなことは避けたいと小野さんはいいます。
そして、ものづくりの安定性を維持するには、“メンバーが作業しやすい環境”を整えることも重要だといいます。
障がいのある人にはさまざまな特性があり、そのひとつとして、慣れた作業を継続的に行うことを心地よく感じる人も多くいます。工房にもクッキーの丁寧な成形を得意とするメンバーがおり、その作業を長く担当することで作業スピードが各段にあがり、数をこなせることがメンバーの自信にもつながっているのだとか。

そうした“作業しやすい環境”づくりがさまざまなパートで導入されている同事業所。その工夫のひとつに、クッキーの製造量ごとに色分けされた材料分量表があります。
「その日によって製造量が異なるので、分量を色分けして『今日は赤の分量でつくりましょう』というふうにお願いしています。メンバーによっては、言葉のやり取りだけだと不安に感じてしまうこともあるので、視覚的にわかりやすく、安心してもらえるような工夫をしています」(小野さん)

メンバーのやりやすい作業方法や環境が整えられています。
ほかにも、つくり方の手順を写真で示したり、道具をしまう引き出しには「おたま」「ヘラ」と名前を貼ったりする計らいも。さらに、一日のスケジュールをホワイトボードに書き出して、メンバーが今日の取り組みを認識し、より集中して作業に向かえるような働きかけも行われています。
そのような工夫が、安定した品質のお菓子づくりにつながるだけでなく、メンバーの心身の安定や、自信にもつながっていく。そうした心地いい環境を創造し、提供していくことこそ〈飯田川つくし苑〉が重要視していることだといいます。

やりがいと喜びが生まれる場所
さまざまなクッキーを手がける〈飯田川つくし苑〉で、フラッグシップ・スイーツとなっているのは「おさつクッキー」。練り込まれたサツマイモを存分に感じるやさしい甘みと、ホックリした歯ざわり。まだ味わったことのない方は、ぜひ試していただきたい一品です。
同事業所では日中活動の1つとして農作業も行われており、農薬を使用せずにサツマイモを栽培して、それらを製菓に活用しています。
「陽の光を浴びながら、草をとり、水をやり、作物を手入れして、『自分が育てている』という実感を得ることが、メンバーの喜びややりがいにつながっています」(小野さん)
また、地域の農家との連携から生まれるお菓子も。たとえば、市場には出回らない、いわゆるB級品といわれる規格外のかぼちゃやりんごを購入し、原材料として加工するなど、付加価値をプラスし、商品として販売しています。

バターなども良質な原料にこだわり、メンバーの丁寧な作業と、スタッフのきめ細やかな仕組みづくりのなかで生まれる焼き菓子たち。それらは事業所が運営するカフェや、地域の道の駅などで販売されたり、〈sweet heart project〉を通じて県外の人にも届けられています。
年々増加する注文に忙しさは否めないものの、「メンバーはみんなやる気です!」と語るのは、支援員・嶋崎奈緒美さん。
「今週はこれくらいつくりますよ、と事前に伝えると『いっぱいきた!』『え~、今週は少ないね?』という反応のなかで、納品に向けて協力して取り組む体制ができています。メンバー自ら『これが足りないから、私がやるね』と自主的に動く人もいて。無事に梱包して発送すると、みんなで拍手して喜んだり。みなさんのやりがいにつながっているのを感じています」
そんな製菓の現場では、メンバー同士で「ここはこうだよ」と教え合ったり、「私が代わりにやろうか?」と声を掛け合ったり、ときには「あの人の方が作業が早い……」と悔し涙を流したりするメンバーもいるのだとか。
「みなさん自立度が高いんですよね。日々いろんなことがありますが、お互いに刺激し合い、支え合って、それがいいものづくりにつながるようにスタッフ側も工夫していければと思っています」(嶋崎さん)

〈sweet heart project〉との関わりのなかで
毎朝行われるミーティングでは、自分たちのつくったお菓子がどこへ納品されるか、または購入者から届いた声を必ず伝えるようにしているという嶋崎さん。励みになる声にはみなで手を叩いて喜び、ときに考えさせられる意見があっても、メンバーたちはやる気につなげているといいます。
そして、東京の大企業や、銀座のカフェ〈AOU 銀座の森〉などに、自分たちのお菓子が届いているという事実に、メンバーは大きな喜びを感じているという小野さん。
「〈sweet heart project〉さんからご注文をいただくと、すごいところに自分たちのものづくりが関わっているんだ! という実感とともに、メンバーのモチベーションが上がったりしているようです。やっぱり都会ってキラキラして見えるので(笑)」

評判を呼ぶ〈飯田川つくし苑〉のお菓子は年々売上を伸ばし、その売上は「工賃」としてメンバーへ還元されています。
全国の就労継続支援B型事業の平均工賃は月額17,031円(令和4年度・厚生労働省調べ(注4))というなかで、〈飯田川つくし苑〉の令和5年度の平均工賃は3万円以上。
「おかげさまでこの3年間、メンバーの工賃アップにつなげられています。平均工賃が上がれば施設の魅力にもなる。そうすると一緒に働く新しいメンバーが増えて、売上も増えていく。それがさらに工賃アップにつながっていく――そんな良好なサイクルが生まれています」(小野さん)
お手元に焼き菓子が届いたなら、〈飯田川つくし苑〉のお菓子が含まれているかぜひチェックしてみてください。メンバーやスタッフの思い、事業所の様子を思い浮かべながらクッキーを味わってみてはいかがでしょうか。
(注4)就労継続支援B型事業では、令和6度から平均工賃月額の算定方法の見直しが行われ、記載している令和4年度の平均工賃とは算定方法が異なります。
―――――
画像提供:社会福祉法人 南秋福祉会 飯田川つくし苑

(ライター・エディター)