スイート・ハート・プロジェクト(SHP)の福祉のお菓子は、様々な企業との出会いを生んでいます。では、どんな理由から選ばれ、どう活用されているのでしょう。
2021年からお付き合いが始まったのが、アッヴィ合同会社(東京都港区)の財務・戦略本部です。アッヴィはアメリカに本社を置くグローバルな研究開発型バイオ医薬品企業。日本法人であるアッヴィ合同会社は、従業員数1500人超、「患者さん1人ひとりの人生を豊かなものにする」などの企業理念を掲げ、免疫疾患、肝疾患、精神・神経疾患、がんの各領域を中心に、新薬の開発や販売などを行っています。
財務・戦略本部は、財務、事業開発、サプライチェーンマネジメント、経理、総務などの幅広い業務を担い、会社全体のマネジメントに関わるとともに、最前線で医師・看護師・薬剤師などのメディカルスタッフや患者さんと接する社員の活動のサポートも担う総勢70~80人ほどのセクションです。コロナ禍真っ只中の2021年と2022年末、財務・戦略本部のメンバーによる「リモート交流会」の場で、スイート・ハート・プロジェクト(SHP)のお菓子を採用いただきました。
なぜSHPが選ばれたのか。その経緯や理由について、渡邊智之本部長、そしてSHPの”発見者”である永井康子さんに話を伺いました。
アッヴィ合同会社の詳細についてはこちら→ www.abbvie.com をご覧ください。
福祉のお菓子を「チームビルディング」に
アッヴィの財務・戦略本部では、日ごろ直接顔を合わせることの少ない本社、地方オフィスのメンバーが年末、一堂に会して行う「交流会」を重要なイベントと位置付けています。航空機整備工場を見て回った後の新幹線駅近くのレストランでの会食、スープ工場見学後の老舗洋食店での会食……。慰労、懇親の場にとどまらず、社会見学、交流イベントを通じて本部メンバーの結束を強化し、視線を重ね合わせるチームビルディングの意味があります。
ただ、コロナでフルリモート体制となった2020年は、対面での交流イベントが開催できませんでした。そんな中でも、人事本部が中心となり、西日本豪雨災害、熊本地震などの被災地支援につながる特産品の購入を通じて地域社会に貢献できる全社的な企画を実施しました。永井さんは、それも参考にしながら、財務・戦略本部には「よりチームビルディングにつながるもっと違った企画が必要では・・・・」という思いもあったようです。
「社会貢献になるリモート会食」を探して
翌2021年。恒例の本部単位での年に1度の会食は復活することになりましたが、まだまだコロナ収束とは程遠く、開催は「リモート」に限定されました。
2年近くもメンバーが集えない状況下、リモート会食だけではコミュニケーションを深めるにも限界があります。そこで渡邊本部長の頭に閃いたのは、ひとひねり加えた「『地域社会のために』につながる意義ある企画と、リモート会食を組み合わせられないか」という考えでした。ここから永井さんたちの「社会貢献になるリモート会食」を考える旅が始まりました。
「アッヴィという会社は『患者さんの笑顔のために』を掲げて薬を迅速に届けることを目指して取り組んでいますが、財務・戦略本部は営業などの部署に比べると直接の関わりが少ない分、『地域社会のために』や『患者さんの笑顔』といった理念を実感することが少ないかもしれません。各メンバーのモチベーションを高めるため、他本部とは違う視点で年末の会食を活用したい、というのが本部長の投げた課題でした」(永井さん)。
「お題」をもとに、同僚とともにアイデアを模索していた2021年秋。永井さんがインターネットで見つけたのが、SHP(スイート・ハート・プロジェクト)を紹介した「婦人画報」の記事(2021. 6. 14付)でした。
クッキーを食べて社会貢献もできる。「sweet heart project」の焼き菓子がおいしい理由 「おいしいクッキーを買うだけで、障がいをもつ人の自立支援にもなります」。
こんな見出しに惹かれて読み進むうちに、東光篤子代表がどんな問題意識からSHPを立ち上げたのか、その背景や経緯に強い関心を抱きました。すなわち、各福祉施設の持つ力を最大限に引き出し社会に広めるために、SHPが商品開発、ブランディング、原材料調達、販路開拓などの機能を担っているということに。
「SHPの取り組みは、財務・戦略本部がアッヴィで発揮している価値に通じるのでは?」。そう感じた永井さんは、福祉のお菓子を使ったリモート会食の企画案を早速、本部長に上げ、賛同を得ます。こうして2021年12月、第1回の「スイートハートプロジェクトの茶菓でリモートお茶会」が実現しました。

第1回は、2日間にわたって開催し、参加者は計37人。SHPの取り組みや福祉施設の現状などについて、じっくり考える意見交換の場となりました。各メンバーは手元に届いたお菓子にそれぞれのストーリーがあることを知り、感想を闊達に語ってくれました。
この時、皆さんはSHPの取り組みをどう受け止めたのか……。
「従来型の障がい者支援ではなく、商業的な成功を目指していることが素晴らしい(継続性が違う)」(Aさん)
「仕入れコストや味、デザイン等にも気を配り、善意だけに頼らず、事業としてサステイナブルな仕組みになっていることに感銘を受けた」(Bさん)
「可愛らしいだけでなく、本格的な見た目と味の商品で、とても気に入った。それぞれのパッケージに作成された施設の名前が入っており、様々な施設で様々な方々がこの活動に携わっていることを想像すると、豊かなストーリー性を感じ、素敵な活動だと思った」(Cさん)
……こうした感想を拝見すると、SHPが目指す方向性、福祉施設のお菓子を広める意味、社会貢献のあり方に深く共感いただいていることを痛感します。また、パッケージの袋などに描かれている障がい者アートは、福祉のお菓子の発信と並んでSHPが力を入れている分野です。知的障害のあるアーチストの作品は、強烈な個性や感性が光り、時に生命の根源を感じさせるような魅力を生み出しますが、世間に広まっているとは言えません。永井さんは「Heartのartはお菓子のパッケージ、ラベルのアートだし、フランス発祥の『art brut』(アール・ブリュット、生=き=の芸術)というジャンルについても学ぶことができた」と総括してくれました。
SHPの価値提供ストーリーを共に
2022年の年末も、引き続き「リモート会食」となりました。
永井さんは渡邊本部長と相談して、第1回リモートお茶会で評価が高かったSHPの価値提供ストーリーを、より多くのメンバーと共有する企画を練ってくれました。
第2回は2022年12月。「私たちのいる場所を確認する(Review, Talk and Share “Where We Are”)」と銘打って開催され、参加者はほぼフルメンバーの71人です。
第2回開催に当たっては、企業風土や「体温」に触れる意味も兼ねて、東光代表や実行委員が本社オフィスを見学。さらに東光代表の提案で、並べると社名の「ABBVIE」になるクッキーも用意しました。社名入りのお菓子は、参加者同士の視線を重ねるだけでなく、福祉施設とのつながりを意識できるツールでもあります。

社名入りクッキーを作ったのは、秋田県潟上市にある「飯田川つくし苑」(どんぐりの森工房)。アルファベット文字の入ったクッキーは地元産食材を生かしたオリジナル品ですが、文字部分と台座をくっつける作業が加わるうえ、割れやすいので入念な注意が必要です。工房で作った「試作品」をSHPの事務所へ送って味、品質、硬さをチェックするなど、「改良」は納品ギリギリまで続きました。
また参加メンバーの中には、アレルギーのある方もいれば、甘いものが苦手な人もいます。そこで参加者それぞれのアレルギーカテゴリーも調べてもらいました。「甲殻類、そば、アルコール、アーモンドなどが商品に入っていないかを各施設に確認したうえ、納品前には事務所でパッケージに記載された成分内容を1つひとつチェックしました」(東光代表)。リモート会食の舞台裏にこんな手間が介在することも、1つの価値かもしれません。
では、第2回リモート会食の感想は……。
「継続が大切だと感じていたので、今回も依頼できて良かった」(Dさん)
「SHPを選んだ背景を学べた部分が特に良かった。遠巻きながらプロジェクトに参加・貢献出来たことを嬉しく思った」(Eさん)
「昨年もとても良かったが(美味しかったし)、何よりも一度きりでなく、継続してサポートする選択が素晴らしかった」(Fさん)
◇ ◇
ありがたい言葉の数々、ひしと受け止めたいと思います。数ある社会貢献手段の中で、SHPの取り組みに注目していただいたこと自体、奇跡的なことかもしれません。ですが、コロナ下のリモート会食は、社会に思いを馳せながら、皆さんがご自身のミッションを見つめ直す特別な機会であり、社会を変えたいと願うSHPの理念と響き合う部分がある気がします。何よりも、福祉のお菓子を通じて「やさしい社会」をつくる試みに、確信をもって共に参加していただけたことに、大いに力づけられます。
2023年5月には、広報部の社内イベントでもSHPのお菓子が参加者に提供されました。これも財務・戦略本部の皆さまにSHPの提供価値を評価いただいた結果です。
また、リモート会食時にお菓子のパッケージで用いられたアートは、今も皆さんのスマホやパソコン、ロッカーなどに貼られているとうかがいました。作品として愛され、「記念碑」として心に刻んでもらえたことは望外の喜びです。

◇ ◇
ところで、アッヴィという会社が、なぜ社会貢献や笑顔にこだわるのか。
それを考えるヒントが1つありました。
JR田町駅近くのオフィスへ伺った際、受付ロビーで手に取った冊子があります。「笑顔のメモリー」。副題は「アッヴィ”Patient Centricity”ストーリー」。
冊子をめくると、イラストと共に綴られているのは、患者さんやその家族、治療に当たる医師や看護師、検査技師などのメディカルスタッフと、アッヴィの社員との間で繰り広げられた実話、10人の「こころのドラマ」でした。読み進むうちに気持ちもほっこりし、心があたたかくなってきます。
ペイシェント・セントリシティ。門外漢には耳慣れない言葉でしたが、医療のすべてが患者さんを中心に考えられ、行われる「患者中心」という考え方だということは、知人の医師や、医療最前線を取材する同僚たちから聞いて知りました。持ち帰った冊子を眺めていると、患者さん1人の対症療法にとどまらない、患者さんや家族の気持ちに寄り添い、豊かな人生と幸せを願う温かい眼差しがある気がしました。アッヴィという企業の文化や働く方々の人柄が、垣間見えた気がします。
「社会貢献につながるリモート会食」への求道者的なこだわりも、そんな企業カルチャーの産物かもしれない、と想像を膨らませました。


sweet heart project 実行委員
フリージャーナリスト。日本経済新聞社入社、東京本社流通経済部記者、キャップ、デスク、編集委員として、大手流通業の盛衰・解体などを取材。北九州支局長、静岡支局長、地域情報誌「日経グローカル」編集長、 生活情報部編集委員、編集局長付編集委員